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院長エッセイ

長野市稲里町田牧 の 脳神経外科・神経内科 脳とからだの くらしまクリニック

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二月

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 それにしても毎年ながら3月1日は唐突にやってくる。2月28日からいきなりスキップして今日から3月ですと言われてもどうもしっくりこない。心や体が感ずる季節と暦との間にずれがあるからなのだろう。弥生[草木がいよいよ生い茂る月「木草弥や生ひ月(きくさ いや おひづき)」が詰まって「やよひ」]と呼ぶにはもう数日が必要である。いったいどうして2月がこんなに不自然に短いのだろう。
 現在私たちが使っている太陽暦はどうやら古代ローマの暦が基となっているらしい。紀元前の暦の1年は今の3月から始まり、12月までの10ヶ月しかなかったようで、農業をしない冬の期間にはなんと月日が割り振られていなかったという。そのうちヌマ・ポンピリウスという古代ローマの王が、冬期にIanuarius(英語のJanuary)とFebruarius(英語のFebruary)の2つの月を追加したという。だから2月は元々は2番目の月ではなく、1年の最後の月として誕生したことになる。1年を1月からと決めたのはかの有名なジュリアス・シーザー(ユリウス・カエサル)である。1年を原則365日として、4年に1回閏年(うるうどし)を設けて366日とすることで、平均年を365.25日、1太陽年に符合させた優れた暦法と言える。日数調整はかつて1年の最後の月であった2月が担当し、もともと28日と短く設定されていたものに、閏年には1日をプレゼントされて29日となったらしい。この暦にはシーザーの名前が残っている。彼は自分の誕生月7月を、名前Julius(Iulius)にちなんでJuly(7月)と改名したのだ。彼の後継者で初代ローマ皇帝となったアウグスツスも、誕生月の8月、かつてセクステイリス(6番目の月という意味)と呼ばれていたものをAugustus(英語読み:August)と改名したという。
 このように2月は1年の中では最も遅れて設けられた月で、太陽年に合わせて日にち調整できる便利な新米だから、もともと存在感が薄いのは仕方がないのかもしれない。28日間という中途半端な長さであるし、取り立てて心惹かれる行事もなく、地味なイメージをぬぐえない。
 だが昨年の2月は豪雪で度肝を抜かれた。8日に14.0ミリ、14日から16日までたて続けに23.5、25.5,13.0ミリの降水量となった。200坪あまりある診療所の駐車場の除雪は本当につらい作業であった。残務を終えて帰途につこうと診療所の玄関を開けた途端に眼の前に展開した駐車場の深雪は、突きつけられた厳しい現実として心底こたえた。これまでの自分の人生において、雪景色は多くの場合叙情的な記憶の名舞台であり続けてきたのに、昨年の豪雪は間違いなくトラウマとなった。しかし、綿菓子のようだった深雪もやがてすっかり溶けてなくなり、クリニックの周辺には3月、4月と梅、桜、プルーンや杏がところ狭しと咲き誇って、まるで花火のスターマインように盛大に春が展開した。まさに冬ありてこその春だったのだと思う。安楽や快楽が近頃身近にごろごろ転がっていて、怠けたければいくらでも怠けられる世の中になってきている。そんな人類たちへの警鐘があの2月の豪雪だったのかもしれない。
 ともかくも今年の2月はあまり大事もなく地味に過ぎていった。いや、現実には世界で様々なおぞましく悲しい出来事もあったが、私に関しては大過なく過ごすことができた。28日しかないとか、存在感が薄いなどと不平を述べることは止めて、自分の誕生月でもある2月をもっともっと尊ぶべきなのかもしれない。シーザーやアウグスツスのように。かつて自分が水瓶座生まれであることと、福山雅治と同じ誕生日であることに根拠のない優越感すら持っていたではないか。気象庁が公表しているデータベースによれば、私が生まれた日は水曜日で、長野市の最高気温は3.7℃、最低気温が-0.5℃と、2月にしては比較的暖かな日だったようだ。50数年も昔のことであるが、寒さの苦手な私のために母はそんな穏やかな冬の日に産んでくれたのだと、天国の彼女に仏壇の前で「ありがとう」と合掌した。(2015年3月)

2015-03-08 13:51:00

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